先祖供養のリアル

ドローン仏が飛んだ瞬間、旅立ったと感じました

ドローン仏が飛んだ瞬間、旅立ったと感じました

ルポ先祖供養のリアル⑪ 出会いがあれば別れがあるのがこの世の定め。かけがえのない身内や知人のご供養の場には、皆さん深い思いをもって臨まれます。今回は「お葬式の伝統的な花祭壇の前になんとドローン仏が安置され……」というお話。

分けへだてなく誰にも温和で、いつも朗らかな笑顔を絶やさなかった上中春江さん。今年5月、老衰のためにご生涯を閉じた。行年98歳だった。

長男の上中忠男さん(71)と妻の典子さん(67)は、「お寺の本堂で記憶に残るお葬式がしたい」と願った。阿弥陀さまのぬくもりのある本堂なら、こじんまりした家族葬でも、きっと温かく送り出せるという期待もあった。

お通夜のあと、ご夫婦は住職にひとつの相談をした。

「明日、ドローン仏を飛ばしてもらえませんか?」

テレビ朝日「ナニコレ珍百景」で龍岸寺が紹介されたのを見て、ドローン仏を知った。ドローン仏が極楽からお迎えが来る情景を現したものなら、春江さんのお葬式でぜひ飛んでほしいと思った。

住職は、初めて寄せられた要望に戸惑ったが、ご夫婦の気持ちを受け止めようと決心した。あいにく、操縦できるスタッフの手配も難しかったから、翌朝の葬儀では、金襴の袈裟をまとった住職が自らコントローラーを手に持って入堂。祭壇脇に安置されたドローン仏が飛び上がった瞬間、ご遺族も住職も「春江さんが浄土へと旅立った」ような幸せな感覚を抱いた。

参列がかなわなかった埼玉在住のお孫さんのために、カメラを設置してお葬式を中継。「リモートで拝んでいてもお寺の本堂は温かかった」という。

テクノロジーを駆使した最先端のお葬式を、春江さんは生前さながらにニコニコしながら楽しんでいたことだろう。

※この記事は、「ファン通信」Vol.13に掲載されたものです。