卍 第5回★「テーラワーダの現場から~聖なる瞑想と特別な芸術」開催レポート
2017.04.15(土) 天気:晴れ☀のち大雨☂ 記:メイドくーたん
ゲスト:魚川 祐司氏
1979年、千葉県生まれ。著述・翻訳家。
東京大学文学部思想文化学科卒業(西洋哲学専攻)、
同大学院人文社会系研究科博士課程満期退学(インド哲学・仏教学専攻)。
2009年末よりミャンマーに渡航し、テーラワーダ仏教の教理と実践を学びつつ、
仏教・価値・自由などをテーマとした研究を進めている。
著書『仏教思想のゼロポイント』(新潮社)
『講義ライブ だから仏教は面白い!』(講談社+α文庫)
訳書『ゆるす』『自由への旅』(ウ・ジョーティカ著・新潮社)
共著『悟らなくたって、いいじゃないか』(幻冬舎新書)など
今回は、現在ミャンマーにてテーラワーダ仏教を研究されている、
「ニー仏」さんこと魚川祐司さんにお越しいただきました。
新進気鋭の仏教哲学者として話題の方だけあって、
本堂は満員御礼。なんと関東から遠征でいらっしゃる方も!
会場全体で、池口住職主導による般若心経のお勤めをしてから、
ブッダの最初の悟りの内容とその後の変遷について「仏教思想のゼロポイント」を道筋に前提を調え、
聖/俗の境界線のことや、瞑想と芸術の関係についてなど、非常にこってりとお話いただきました。
「ブッダの教えって要は、『女とは目も合わせないニートになれ!』ってことなんです。」
カジュアルな例えを使って会場を沸かせながら、その背後にある思想もしっかりと解説してくれるニー仏さん。
膨大な知識量に裏付けされたわかりやすい言葉で、抽象的な概念に鋭く切り込んでいくトークが痛快でした。
「『仏教思想のゼロポイント』を読んできたが、さらに理解が深まった」という参加者も多くいらっしゃいました。
後半は、より深淵に迫る内容へ。
条件によって生ずる「苦」と、条件付けを打破していく修行のプロセスについて。
有為転変の世界で、物語に巻き込まれて生きる私たち。
物語は、自己と社会との関わりの中で「相対的に」、
時として「暗黙のうちに」共有されます。
社会からの視線、物語による思い込みは、「正しい認識」を阻害する。
わたしたちはきっと、自分という存在すら正しく認識できていない。
絶対的に存在する自我。相対的に浮かび上がる自意識。
*
「自我を主張すること」が芸術、と思っている人は多いかもしれませんが、
わたしは、芸大で4年かけて、そうではないと思うようになりました。
自我は、主張するものではなく、
自意識を滅却することによって「自ずと」浮かび上がらせるものなのかもしれません。
「自分を表現する」という言葉がうかつに使われる場面がありますが、それはおそらく間違いで、
私たちには「自分の認識しているものを表現する」ことしかできません。
「認識しているもの」を「表現」しようとしたときに、
「自分」という存在は時として邪魔な、障害になります。
「思い込み」が、純粋な認識を阻害するのと同じ理由で。
「物語」(社会と自己との関係)に一石を投じ、思い込みを疑い、
より純粋な認識―かたちや色であったり、身体的感覚―を志向していく芸術の営みは、
ゆらぎを重ねて認識を研ぎすませていく修行のプロセスと似ているように思いました。
「波無きところに波を立てる」
やがて、水面は平らになり、記述すら必要としない「生のよろこび」に到達するのかもしれません。
絶対的な自我、相対的な自意識。
社会と自己との板挟みの問題に、わたしは「山月記」を思い出しました。
彼は、過剰に分泌された自意識に苛まれ、自我を主張し、
そのアンバランスさゆえに社会との折り合いが付かなくなって、虎になってしまった。
社会の中に生きることを止めないならば、結局のところ、自意識も自我も両方必要で、
軸足をその都度変えながら進んでいくことになるのかもしれません。
空「動的平衡・・・ですね」
魚「!」
空「えっ」
魚「くーたんが四字熟語を使っただけでびっくりしちゃった」
空「えええ~~~。笑」
蝶のように舞い、蜂のように刺す(刺す頻度高め)ニー仏さんならではの掛け合いに、
会場からは「将棋の大盤解説を見ているようだった」との声も。
ぴゅあらんどでは閉会後も、ご来場いただいたみなさまに暫し会場を開放しています。
今回も、居心地の良い本堂に残って尽きない話を楽しむ人々が多数いらっしゃいました。
にわかに空が暗くなり雨が降りはじめ、雨樋から滴る粒を眺めながら感想を共有する時間も愉しく。
龍岸寺は雨の似合うお寺だなぁ、と改めて思ったり。
緩やかに優しい時間が流れる、春の一日でした。
★次回:8月26日(土)開催。
波勢邦生(キリスト教研究者)×メイドくーたん
これまでの回の総集編となります!
①キリスト教(宗教のリアル、オタク、サブカル)
②チベット仏教(共苦と情、個別主義と普遍主義)
③ユダヤ教(共同体としての正義、個人の信仰)
④イスラム教(現代における信仰)
⑤テーラワーダ(修行、聖と俗、瞑想と芸術)
⑥キリスト教(伝道教会、社会との接点)
これまで扱ってきたさまざまな宗教現象をつなげながら、
改めて「宗教と社会の交差点に立って」現代における宗教のありかたについて考えたいと思います。
主要宗教の概略もざっくりとさらえるので、はじめて宗教に触れるという方にもおすすめです!
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