龍岸寺はなぜライブハウス化できたのか(設備篇)
7月30日(あと8日!)には、浄土系アイドル”てら*ぱるむす”の2期生お披露目公演を控える。今日はそのリハーサルだった。
その6日後、8月4日には、鈴木トオルさん、秋人さんを迎えてのライブ公演「Love in City 2017」も予定される。
去る5月にも”寺JAZZ”コンサートがあったから、「龍岸寺はライブイベントばっかりやっている」と思われているかもしれない。しかし、住職の私自身がライブイベントを誘致しているわけではなくて、周りから「お寺でライブやりたい」という声が寄せられるから、それを楽しんでいるだけ(のつもり)である。演劇の公演などもいくつか希望を聞いたが、いずれも日程が合わず断念した。今後は演劇の公演もきっとあるだろう。
おそらく、「お寺の本堂はライブ会場にちょうどいい」と思っているアーティストは多い。だが、なかなかライブが実現するにはいたらない。「本堂の内陣で歌ったり踊ったりなんてけしからん!」という意見や、「不特定多数が使うと本堂が痛むんじゃないか」という不安のために、アーティストのほうがせっかく話を持ち込んでも、住職が首を縦に振らないからである。また、PA機器や照明機材は基本的にお寺に持ち合わせがないから、その場合、わずか1回や2回程度の公演のためにレンタルして設営すると、コスト面でも採算が難しくなる。かくして、「お寺の荘厳な雰囲気のなかでライブやりたい!」と直感したアーティストがいても、どこかのタイミングで心が折れて、「やっぱり敷居が高いなぁ」という印象だけが残る。
さて、ここ龍岸寺の場合である。
昨年が龍岸寺開創400周年の節目だったので、檀信徒の皆さまにご寄付のお願いをして、瓦屋根の葺き替え、空調、音響、照明設備の整備などに取り組んだ。多くの方々のご協力をいただき、おかげさまで、予定していた事業を無事に完遂できた。
○○周年などのタイミングでこのような事業に着手することは、どこのお寺でもよくあることである。ただ、他のお寺のケースと少し違うのは、傷んでいるところをただ修理するのではなく、何人もの専門家に相談をしたうえで、今後どれだけ多目的にお寺が使用できるかを考え抜いたことだろう。もちろん、伝統的な法要をいっそう厳かに執り行えるようにも配慮しつつ、である。
たとえば、音響、照明設備。
通常、法要を行う場合に必要になる音響機材は、住職や僧侶の声を拾うマイクと、それを堂内に響かせるためのスピーカーである。お寺の本堂の梁や壁面を見上げてみると、スピーカーが吊り下げられているをよく目にする。これは見た目に美しくないし、設置場所が固定されると自由にステージを設計しにくい。したがって、CLASSICPROの「PA ONE」という、床置き型の細長いコラムスピーカーを2本導入することにした。これを、日頃は本堂の片隅に隠して置き、使用するときだけ前に出してきている。片隅に置いた状態でも、法要時の私の音声を本堂に響かせるぐらいのパワーはある。ライブイベントの時もこのスピーカー2本だけで事足りている。マイクやスピーカーとミキサーをつなぐケーブルはもちろん極力見えないほうがよいので、床下を通した。床下に長距離にわたってケーブルを引くとノイズをかむ可能性を指摘されたので、ノイズに強いケーブルを選んで配線工事をしてもらった。
老朽化していた外陣と脇陣の照明は、LEDのダウンライトを天井に埋め込むのが無難なやり方に思われたが、検討を重ねた結果、竿縁天井の細木に沿ってダクトレールを6本設置し、ギャラリーさながらにスポットライトを自由自在に配置できるようにした。もちろん、調光機能もつけた。嬉しい誤算だったのは、黒色のダクトレールは古い木材の色に同化すること。意外なほど目立たない。ダクトレールが設置されていると気づいていない人は多いだろう。
その他、配慮したことは、たくさんありすぎて書ききれない。専門家の力を借りたとはいえ、なかなか骨の折れる作業の繰り返しだったが、もろもろの設備工事が終わったら、法要にも、そして、ライブやイベントの会場としても、すごく使いやすい本堂になった。現代におけるお寺づくりを考えるうえで、ひとつの良い事例をつくれたのではないか、と自負している。
「お寺でライブやりたいです」などと龍岸寺を訪ねてくる人は、設備を見て一様に驚くとともに、「ここなら大丈夫だ」と安堵感を覚える。私としては、先にも書いたように、法要を含め多目的にお寺が活用されるための環境づくりをしているつもりだが、ここしばらくは、アイドルライブ含め賑やかなイベントが増えていきそうである。楽しみに注目していていただければと思う。