龍岸寺の建築を楽しむ
本堂外観でまず特徴的なのは、屋根が本瓦の錣葺になっていること。錣葺(しころぶき)というのは、大棟から軒にかけての部分に一段区切りをつけた造りです。寺社で本堂の屋根を錣葺にする例は珍しいですね。岡山県の閑谷学校講堂が有名です。
正面には向拝虹梁(ごはいこうりょう)があり、中心に龍の彫刻①が配されています。通常だと板面を少し浮彫にする程度ですが、龍岸寺のものは完全な立体として彫られた珍しいものです。社寺建築的には蟇股(かえるまた)の一種にあたるでしょう。繋ぎ虹梁(向拝の柱と本堂を繋ぐ部材)②も少し珍しい形です。本来、繋ぎ虹梁は桁の下に位置する柱と身舎(もや、本堂本体のこと)を繋ぐのですが、龍岸寺では桁のあたりと身舎を繋ぐ形になっているんです。左右の繋ぎ虹梁には、それぞれ内外に同様の唐草模様が施されており、本堂に向かって左側の内側だけ他と異なるデザインになっています。本堂を支える材は一見すると主にケヤキで、長押(なげし、柱と柱と繋ぐ部材)にはヒノキやトガが用いられています。建築当時、よい材をふんだんに使用していたことがわかります。
本堂に入ると、まず目に入るのは外陣と内陣の間にある正面の欄間彫刻です。大威徳明王でしょうか。今にも飛び出して来そうな迫力です。御本尊の周りには四天柱(してんばしら)③という柱があります。金箔を押した上に透明な漆が施され、上部には極彩色の装飾。浄土宗寺院でここまでの御荘厳(おしょうごん、仏様などに施す装飾)がなされる例は他に思い当たりません。よく見ると、剥がれ落ちそうな部分も多く見られるので、これからしっかりと保存修復を考えていく必要がありますね。
本堂に限らず、あちこちにある金物の中に、六葉金物(ろくようかなもの)④という特徴的なものがあります。よく「宮大工さんは釘を使わないんでしょう?」などと言われますが、それは誤解で、釘がないと〝もの〟は建ちません。しかし、釘を打つと釘の頭が見えてしまい体裁が悪いので、六葉金物のような綺麗な錺金物(かざりかなもの)で隠しているんです。そのため、六葉金物は別名「釘隠し」と言います。錺金物を作る錺師(かざりし)さんのおかげで、社寺建築の仕事は綺麗に見えるんです。
客殿の六葉金物⑤は、これもまた珍しいものでした。ベースのところに金箔が押されていて、猪目(いのめ、金具にあるハート型の穴)からその金が透けて見えるという凝った細工がされています。部屋と部屋の間には竹の節欄間⑥。これは江戸時代の京都の有名どころの観光寺にもあるようなものです。欄間の障壁画も立派で、狩野派風の松図が描かれています。
(有限会社匠弘堂社長・横川総一郎さん談)