冥土喫茶ぴゅあらんど

✡ 第3回★「どっからどこまでユダヤ人?彼方の境界線」開催レポート

✡ 第3回★「どっからどこまでユダヤ人?彼方の境界線」開催レポート

2016.09.17(土)  天気:晴れ☀  記:メイドくーたん

ゲスト:山森 Levy みか氏
大阪に生まれる。
国際基督教大学大学院比較文化研究科博士後期課程修了。博士(学術)。
現在テルアビブ大学人文学部東アジア学科講師。日本語主任。
1986-90年、1994年より現在までイスラエルに住む。
著書『古代イスラエルにおけるレビびと像』(国際基督教大学比較文化研究会)
『「乳と蜜の流れる地」から』(新教出版社)
『ヘブライ語のかたち』(白水社)など。訳書多数。

魑魅魍魎が集い、あらゆる「信仰」について考える冥土喫茶ぴゅあらんど・第三回のゲストには、
ユダヤ人の夫を持つ旧約学博士にして、
テルアビブ大学東アジア学科講師(現在イスラエル在住)
山森Levyみかさんにお越しいただきました。

まず、「ユダヤ人」とは一体どういう人達のことを指すのか?という定義の話からスタート。

アイデンティティをどう記述するのか、という、要所要所で立ちはだかる問題。
相対的/外的/絶対的/内的、境界線の引き方によって、さまざまに自分の居場所を記述することができます。
さまざまに記述できてしまうからこそ、人は迷うものです。

ユダヤ人という民族は、地理的、歴史的、宗教的にかなり「ややこしい」ようで、
日本の地で日本人の両親のもとに生まれた日本人(無宗教)であるわたしにとっては、
理解するのに少し時間のかかる概念でした。


私達がなんとなくで使っている「ユダヤ教」だとか「ユダヤ系」という言葉は、
実はとっても「変な日本語」だ、とレビさんは仰いました。

そこにあるものは、日本人が一般的にイメージとして持っている「宗教」や「人種」とは少し違っています。
同質の人が集う社会システム(コミュニティ)と、それに伴う生活システム(規範)。
ユダヤ人として暮らしていくためには、自分のルーツに対して自覚的であることが求められるようでした。

話を聞いて、「ユダヤ教を信じる」というよりも、
「ユダヤ教を暮らす」といったほうが的確なような気がしました。

また、「ユダヤ人」=「ユダヤ教の信者」であるとも限らない、ということで、
実際にレビさんの夫は、「ユダヤ人」でありながら「無神論者」だそうです。


「血統主義であったり、生活規範に信仰が浸透しているところなど、
なんとなく神道とのシンパシーを感じます。」と所感を述べた所、
「ぜんぜん違うけれど、まぁ、ロマンチシズムのようなものは確かに共有できるところはあるかもしれない。」
とのことでした。

ぴゅあらんどでは、あらゆる宗教を多元的に捉える、ということをひとつのテーマにしていますが、
ある宗教とある宗教を比較してここが似ている、同じ構造だ、と論じることに関して
研究者の皆さんはとても慎重である、という印象を受けます。
「そうすることによって安易に語ることができてしまう」、その危険性をよく存じておられるのでしょう。


外的なコミュニティ・ルールによって規定される「ユダヤ人」。
内的な自覚・感覚としての「ユダヤ人」。
血のつながりによる事実としての「ユダヤ人」。
同じユダヤ人の中にもさまざまにレイヤーが存在しています。

とくに、「超正統派」と呼ばれる、宗教的伝統を重視する人々と、
「世俗派」と呼ばれる、宗教的伝統に関してはあまりこだわらない人々の違いは顕著で、
同じ国、とりわけ近代的社会制度の中で暮らしていくにあたって、
軋轢の避けられない場面は多々あるそうです。

立場の違いによって、さまざまな主張、それぞれの正義のぶつかり合いが起こるのは、
人類の普遍的な「苦」であるといえるでしょう。

「断末魔に”話せばわかる”と言った首相もいますが・・・どうなんでしょう。」と聞いた私に、
レビさんは、「いくら話してもわかりあえないことというのは、ありますよ。」と、はっきり答えてくださいました。
その横顔に、これまで見てこられたさまざまな争いが映っているようで、息を呑む若造。

そして会場からの質問コーナー。
「イスラエルでの日本文化の受容について」
――向こうでも、日本のマンガやアニメは人気。
特に、BLやジャニーズを好む女子が多いそう。
イスラエルの男性は基本的にマッチョなので、
「女性が男性を消費してもいい」という概念自体がかなり画期的でウケているとか。

また、現代の政治情勢についても、レビさんならではの視点でまとめてくださいました。

 

▲当日レジュメ

毎回、2時間という短い時間の中で、
「前提の共有」から少しずつじわじわと「深淵」に近づいていく過程に、
私はとってもわくわくしています。
特に研究者界隈の方は、明瞭に明晰に明快に語るため、
「前提の共有」をとても丁寧にされるので、心が洗われる思いで聞いています。
誠実なことばによって知的好奇心が満たされることを、嬉しく思います。

毎回、たくさんの「問い」を残して終わるのも、醍醐味の一つですね・・・。
まだまだわからないことだらけです。

京都のお寺から、「乳と蜜の流れる」遠きイスラエルの地に思いを馳せる、
悠久のひとときでした。

https://www.amazon.co.jp/dp/B01LWVB3YN/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_Mno3xbFNY1EM1
レビ先生の著書です。
ユダヤに興味を持った方は是非読んでみて下さい!イスラエルに行きたくなりますよ~。

 

★次回:8月26日(土)開催。

波勢邦生(キリスト教研究者)×メイドくーたん
これまでの回の総集編となります!

①キリスト教(宗教のリアル、オタク、サブカル)
②チベット仏教(共苦と情、個別主義と普遍主義)
③ユダヤ教(共同体としての正義、個人の信仰)
④イスラム教(現代における信仰)
⑤テーラワーダ(修行、聖と俗、瞑想と芸術)
⑥キリスト教(伝道教会、社会との接点)

これまで扱ってきたさまざまな宗教現象をつなげながら、
改めて「宗教と社会の交差点に立って」現代における宗教のありかたについて考えたいと思います。
主要宗教の概略もざっくりとさらえるので、はじめて宗教に触れる、という方にもおすすめ!
第6回までのファシグラ・レジュメをまとめた冊子もご用意するつもりです。お楽しみに。

こちら(https://ryuganji.jp/events/pureland007/)からお申込み下さい。

ぴゅあらんどのキービジュアルを基にした「龍岸寺オリジナルノート」ができました!

裏表紙のイラストには、てら*ぱるむすやシンカンさん、メイドくーたんの姿も。
当日、会場にて¥500で販売致しますので、ぜひぜひメモに使って頂ければと思います。
龍岸寺ファンの皆さん、ゲットしてくださいね~!