アート×仏教。伝統の再創造。

3年目の熟成

今月10日から、3回目の十夜フェスが始まる。

十夜フェスは、『無量寿経』に「この世において十日十夜の間善行を行うことは、仏の国で千年間善行をすることよりも尊い」と記されていることにもとづいて、お寺で十日間のアートフェスを行おうという試みである。2015年から毎年実施されている。

今年は、宝蔵寺、金剛寺、龍岸寺の3か寺が会場である。金剛寺での開催は初めてだが、宝蔵寺は去年に引き続き2回目である。ただし、宝蔵寺住職の小島英裕さんは、初年度の会場の一つであった誓願寺に奉職されているので、一緒にフェスを迎えるのは3度目である。龍岸寺ももちろん、3年連続の3度目である。公式サイトには過去のアーカイブが掲載されている。以下は去年のアーカイブ動画である。

十夜フェスは、そのお寺を担当する学生と、住職が一緒になってコンテンツを考える。学生と住職とは、生きているフィールドがまるで違うから、ミーティングをしても最初はほとんどカオスでしかないのだけれど、なにかしらのキーワードがきっかけとなって、一つの形に結実していく。

今年、初参加の金剛寺では、六道輪廻をテーマにしたファッションショーをやるらしい。宝蔵寺と龍岸寺は、基本的に去年のコンテンツの延長線上に、今年の十夜フェスがある。テーマはそれぞれ、「人工知能」と「アイドル」である。

去年、小島英裕さんは「人工知能の進化がめざましいが、お坊さんに取って代わる時代が来るのか」と学生に問いかけた。その想いを受けた学生は、小島さんの頭部をかたどってそっくりにコピーしたロボットA.U.さんを作った。ロボットA.U.さんが、本堂でひとり木魚をたたいているところに、小島さんが登場して主役の座を奪って厳かに法要をいとなむ、というのが去年の宝蔵寺のコンテンツだった。

聞くところによると、今年のロボットA. U.さんはさらに進化しているらしい。去年のロボットA.U.さんは、見た目こそお坊さんの姿をしていたが、木魚をしっかり打つのもままならず、木魚の音よりも腕を動かすモーター音のほうが大きかった。本堂にロボットA. U.さんだけが居る状況では、参加者はざわざわっとしていた。小島さんが登場すると水を打ったように静まり返った。やはり、本物の持つオーラは場の空気を変える……と言いたいところだが、進化したロボットA. U.さんはそこを乗り越えてくれるかもしれない。お坊さんよりもお坊さんらしいロボットが完成したときには、お坊さんの役割はどうなるのだろうか。今年も目が離せない。

十夜フェス2017 宝蔵寺(11月17~19日):https://www.ju-yafes.com/blank-1

龍岸寺はというと、去年「お寺でアイドルを作りたい」と言った学生たちが、今年は「超宗派の音楽フェスをやりたい」と突然言い出した。浄土宗の枠内でとどまらずに、広く仏教界を束ねていくような試みを、学生が志願するというのが面白いなぁと思った。試しにキッサコさんやG☆ぷんだりーかさんをはじめ、私の手元にあった仏教系音楽ユニットの音源を渡してみたところ、これがなかなか心に響いたらしい。気が付いたときには、呼びたいアーティストがリストアップされ、あとは日程の調整を残すのみというところまで来ていた。

ライブ当日は、”club*silkroad”というタイトルの通り、本堂がクラブハウスみたいになるらしい。「らしい」というのは、私自身、まだ詳しいことを知らないからである(もちろん、仏教的に見てNGなところがないか、最終的にはチェックをする)。私が協力したのは、演出の都合上、外陣中央からプロジェクタで映像を投影したいと聞いたので、プロジェクタ設置台を別注したぐらいだが、この設置台はなかなかよくできている。出入りの業者さんにお願いして工夫してもらい、掲げられた額を外さなくても、簡単に装着台と取り外しができる仕組みになっている。

お寺の景観を損なわずに、現代の機材を導入していくのは割合に骨が折れる作業なのだが、これを繰り返せばお寺はどんどん可能性が広がっていく。この設置台はまだ1つしかないけれど、数を増やせばかなり演出に幅が出てくるだろう。また、音響面では、本堂は障子やふすまが多くどうしても音を吸ってしまうので、残響を持たせるために今回イフェクターを導入した。

設備面でも充実し、登場するゲストも増え、そして、”てら*ぱるむす”本人もパワーアップして迎える今年の十夜フェス、見に来て後悔はさせないつもりである。ぜひ遊びに来てほしい。

十夜フェス2017 龍岸寺(11月10~12日):https://www.ju-yafes.com/blank

眠っているお寺の魅力を引き出そう

ところで、宝蔵寺で住職が「人工知能」という言葉を発したことや、龍岸寺では「お寺でアイドルやりたい」と学生が口ばしったことがきっかけとなって、お寺の姿が一気に変貌したということを、私はとても興味深い現象だと受け止めている。

京都には世界各地から多くの人々がやってきて、古くからのお寺が立ちならぶ街並を楽しんでいく。龍岸寺の前も毎日、写真を撮っている旅行客の姿がある。しかし、そこからなにかのコミュニケーションが発生することはない。旅行客が実際に訪ねるのは、旅行ガイドブックに紹介されているような、清水寺や金閣寺のようなひとにぎりの観光寺院である。

もちろん、龍岸寺をはじめ街中のありふれたお寺が、清水寺や金閣寺と競っても勝ち目などないし、日々大勢のお客さんを受け入れる体制も整っていない。しかし、龍岸寺ひとつとってみても、三百年以上前に建てられた木造の本堂をはじめ、そのたたずまいは文化的な価値を十分に持っている。他のお寺も、京都は第二次世界大戦の戦火を免れたから、東京や大阪などの大都市に比べれば古くからの姿をとどめているところが多い。

だから、通りがかりに写真を撮って終わりというだけでは、あまりにもったいない。街中のお寺も、もっと魅力を発揮できる可能性があるだろうと思う。古くからの姿をとどめるお寺だけでなく、新しく建てられたお寺であっても、そこに文化的な魅力を吹き込んでいくことは、大切ないとなみである。

しかしながら、お寺の内側で暮らす人々の生態はといえば、お彼岸やお盆など四季折々の年中行事を粛々と行うのみである。古くからの伝統を守ることには確かに長けているし、そこに自信も持っているけれども、お寺のポテンシャルはなにかという目線で思考回路を働かせていない。もし、「お寺×アイドル」「お寺×人工知能」をやりたいと思っても、それを実現できるだけの時間的余裕もない。

そこをうまく補ってくれたのが、この十夜フェスだった。

私が、2年前の夏に、当時、京都造形芸術大学4回生だった圓城史也さんに、『無量寿経』の言葉をベースにした「十夜フェス」をやってくれないか、と持ち掛けたとき、彼は仲間の学生たちをたくさん連れてきてくれた。主に京都市立芸大や京都造形芸術大学などアート系大学の学生だったが、京都大学や京都産業大学の学生もいた。多くの大学がある学生の街・京都ならではのコラボレーションである。若い人たちがお寺に集まると新しいことにどんどん挑戦していくから、自然と活気が出てくる。特に、アート系大学の学生は、お寺の什物に凝らされた技巧のひとつひとつに深い関心を示し、丁寧に扱ってくれるので、安心して共働できる。

十夜フェスがなかったら、龍岸寺はここまで活気づいてなかっただろう。いまでは「お寺で音楽ライブやりたいです」「演劇の公演をやりたいのですが」などと新しい提案が日々持ち込まれる。

今年の十夜フェスのメインビジュアルには「ブッダーランド」という言葉が掲げられている。ひらぱーなどの遊園地にはジェットコースターや観覧車などアトラクションがたくさんある。それと同じように、十夜フェスの期間中、京都というお寺テーマパークでは、アイドルや人工知能やファッションショーなどのアトラクションが展開されている。学生たちが考え出したキャッチコピーの裏側には、そういう意味合いが込められているらしい。確かに、街中のお寺が遊園地のアトラクションのごとく、楽しい場所になっていけば、京都の楽しみ方は変わってくるだろう。観光客の百人に一人や、千人に一人ぐらい、清水寺よりも十夜フェスに行きたい、と言ってもらえるようになるのは、遠い将来ではないかもしれない。

だから、他のお寺にも「一緒に十夜フェスをやりませんか」「学生たちと一緒に新しいものを作りませんか」と声をかけてみるのだが、残念ながら断られることがほとんどである。しかし、これを嘆かわしいことだとため息をつくぐらいなら、十夜フェスを他のお寺が妬ましいと思うぐらい、圧倒的に成功してやりたい。フェス開始まであと数日、ラストスパートである。

十夜フェス2017 龍岸寺(11月10~12日):https://www.ju-yafes.com/blank
十夜フェス2017 宝蔵寺(11月17~19日):https://www.ju-yafes.com/blank-1
十夜フェス2017 金剛寺(11月17~19日):https://www.ju-yafes.com/blank-2

 

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